くれゆかがお届けするキャリア・インタビュー第2弾は、俳優からフリーランスに転身し、執筆・講演・カウンセリングなどで幅広くご活躍中の川口美樹さんに、ご自身のキャリアチェンジの経緯と、理想の生き方を描くための方法をお聴きしました!

やりたいことがわからない方、新しい環境で活躍できるか自信がない方、自分ができるんだろうか?と漠然とした不安をお持ちの方などに、ぜひ川口さんのお話をヒントにお読みいただきたければと思います。

 

俳優業から3つの事業を行うフリーランスに転身

くれ 川口さんは、俳優からフリーランスに転身され、現在、執筆と講演とカウンセリングのお仕事をされています。具体的にどのようなお仕事内容なのでしょうか?

川口 執筆に関しては、オンラインメディアに原稿を寄稿する仕事です。僕がインタビューをしに行くこともあります。企業の代表者メッセージや、サービス利用者の声を聞き、原稿に落とします。講演は、「パブリック・スピーキング」という分野がありまして、いわゆるプレゼンやスピーチ、1対マスでの話し方なのですが、日本には浸透していないのであまり聞かれたことはないですよね。海外では一般的に定着しているスピーキングの概念であり文化です。この知識を生かして、俳優として人前に立っていたことも生かしながら、企業向けにお話をしています。カウンセリングについては、キャリア支援を、コーチングに近い形で実験的にやっているので、公職とは言い難いですが・・・キャリアをどう構築し、どうやって稼いでいくか、という相談に乗っています。

くれ 3つ目の仕事は私に近い領域ですね。では、執筆、スピーキング、カウンセリング、の「書く・しゃべる・聴く」のお仕事をされているということですね!なぜその3つをやろうと思ったのですか?

川口 執筆に関しては、俳優の時に肌荒れがひどくて、美容外科に行っても全く変わらず悩んでいたときに、「ファスティング」に出会ったことがきっかけです。結果、肌の調子がよくなったので、なぜファスティングがいいのかを、健康・美容情報として発信していくようになりました。その時に、「セルフ・パブリッシングしませんか?」という話がきまして。「あ、自分の文章は売っても良いのものなんだ!」と気づき、ランサーズやクラウド・ワークスを使いながら、執筆の仕事を始めたのが入り口ですね。

スピーキングに関しては、美容・健康のカウンセリングをするための入り口として、セミナーをやっていたのですが、アンケートに「話し方が面白い」という感想を多くいただきまして。「あ、これは何か飯のタネになるかもしれない」と思いました。それで、パブリック・スピーキングのノウハウを使って講師をやろうと研修会社に講師登録に行ったのですが・・・26歳で経験も薄いので、門前払いでした(笑)社会的な信用がないんだということがわかったので、作戦を変えて、サラリーマンが自主的にやっているような勉強会で、講師としてカジュアルな場から始めるようにしました。すると、そこに人事担当者の方などもいて、「うちの会社で話してくれないか」とか「社内プレゼンの資料作りを手伝ってくれないか」というお話が来るようになりました。

 

くれ じゃあ、走りながらご自身が活躍できるコンテンツを知り、場を広げていったということですね?

川口 そうですね。何も考えてなかったですね(笑)

くれ パブリック・スピーキングという手法は、海外では体系立ててしっかり教えられるものなのですか?

川口 一般的には欧米の中等・高等教育で行われます。日本では通常プレゼンテーションという言葉しかありませんが、海外では、パブリック・スピーキングという大きな概念があって、その中に自己紹介があれば、スピーチもあるし、プレゼンテーションもある、という考えです。

くれ そうなのですね。日本では「プレゼン」「スピーチ」と分けて使っていますけれども、そのもっと上の概念があるのですね。

川口 はい。プレゼンやスピーチはそのシチュエーションが違うというだけで、基本的には同じであるという概念なのです。

くれ それを勉強されたのですね。海外まで行って?

川口 いえ、アメリカの大学のオンライン講座があって、通信で学びました。

くれ 英語で?すごいですね!

川口 はい、辞書を引きながら勉強しました。あと、知り合いの経営者の方にも教わりました。

くれ 今度ぜひ私も教えていただきたいです!プレゼンテーションって、ビジネスをやっていく方には永遠の課題ですよね。

川口 そうですね。終わりがない学びですが・・・。でも、皆がスティーブ・ジョブズのようにできるわけではありません。あれは天才の域なので、真似しなくても良いかなと思います(笑)彼にはカリスマ性がありますから。ただ、ある程度ルールがあって、人が分かりやすい話し方の構成もありますし、ストーリーの組み立て方もあります。そこにどう演出をかけるかは、ある程度王道の型があるので、それを押さえるだけでも、かなり変わってくると思います。

くれ 川口さんご自身は、そのパブリック・スピーキングのお仕事をやるにあたって、俳優をされていたことが、どのように生かせているのでしょうか?

川口 そうですね。まず、スピーキングは演劇的に考えたほうが良くなるということです。というのは、あなたがあなたとして話そうと意識すると、緊張してしまいますよね。そこで、「役」として話しているのだと考えます。例えば、「私は今、この会社のこのセミナーで話す、という役割を演じている」と思ってもらいます。それは自分を殺せという意味ではありません。与えられた役割の中で自分を表現するので、「役を表現するという服を着て伝えるのだ」と意識を持つと、上手くいくという考えからです。

くれ それ、よくわかります!私もタカラジェンヌという舞台俳優から、キャリアチェンジして一企業に入りましたが、そこで人前で話すほうが不思議と舞台に立つよりも緊張するんですよね。それは、「私」として話そうとするから、身ぐるみ剥がされてしまいそうな臨場感というか緊張感が襲ってくるからなのかと・・・。そういう時に演じていると考えれば、緊張も和らいで思い切り話せそうな気がします。

 

川口 そうですね。そこからそういう役だったらどう立ち振る舞えば良いかなと考えていけばいいのです。まずは形から入るといいですね。

くれ なるほど!さて、カウンセリングはどのように始めたのですか?

川口 カウンセリングはまだ実験的に行っている仕事です。今、ボランティアで講演会のスタッフをさせていただいていて、「自分の人生をどう生きたいか?」をテーマにした話を経営者の方にご講演いただいています。自分の人生の方向性に迷っている方って、すごく多いんです。これからの時代、AIがこれまでの人の仕事を代替してくれるようになり、いわゆるクリエイティビティを必要とする仕事しかなくなるでしょうが、その分、新たな仕事もまた生まれると思っています。そこでじゃあ、自分に何ができるんだろう?と皆悩んでいるわけです。でも、「何ができるだろう?」と考えると答えがみつからないのです。まず「どう生きたいですか?」というところから入らないと、皆ゴールを見失ってしまうと思います。その原体験を、僕は俳優をやめて独立した時に経験していて・・・

くれ 浅野忠信さんに「俳優で売れたいなら、今やっているバイトを全部やめて、俳優で食っていくと決めろ」と言われたエピソードのことですか?

※川口さん浅野忠信さんのエピソードは、こちらからご覧いただけます。

川口 そうですね。でも浅野さんだけでなく、彼の言葉プラス、他の方からも生き方を問われるような言葉をもらいました。その問いかけがあったから、今僕はこうしている、という自覚があるので、自分も人にそういう問いかけをして、どれくらいの役に立てるかという市場性を見たいなと思い、「ストリートアカデミー」を使って、1対1のカウンセリングを実験的にやっています。レビューも比較的良いので、皆さんそういう本質的な質問をしてもらいたいのではないかと思っています。

 

本質的なキャリアの考えに触れた20代前半、「決める」という生き方

くれ 私もキャリア支援をしていく中で、どうしても皆さん、「自分に何があるか」とか「何ができるか」から考えてしまいがちなのですが、もっと大きく、仕事だけでなくて自分がどう生きたいのか、のビジョンがないと、何かをやろうと決めたとしても、どんどん苦しくなってしまうのではないかと思っています。

川口 苦しくなりますよね。ゴールのないフルマラソンを走り、灯台が見えないなか船に乗っているようなものですよね。

くれ そういったことに気づかれたのは何歳くらいの時ですか?

川口 本質的なことに気づいたのは最近ですけれど、「どう生きたいか」ということなんだ!と気づいたのは大学を卒業した23歳の頃ですね。ちょうど3月に東北の震災があった年なんですよ。で、なんだかわからない心のモヤモヤがあって、6月に(今お手伝いしている)講演会に行ったら「どう生きたいか」という質問があって・・・その後に浅野忠信さんにお会いして生き方を知って、「ああ、自分に問われていたことはこういうことなんだ!」とビビッと感じました。

 

くれ 衝撃的な出会い、そして質問だったのですね。

川口 その6月の講演会で質問をくださった方が、こう言いました。「アニメ『ワン・ピース』の主人公ルフィーを思い浮かべてほしい」と。そもそもなぜ彼があの偉業を成し遂げられているかというと、彼は冒険に出た瞬間から、「海賊王になる」と言っているからなのですね。第1巻の最後のページで、彼がそう宣言して終わっているのです。で、ここが作者の意図であると思うのですが、ルフィーは海賊王になり「たい」と言ったことは一度もないのです。彼の中で「なる」と決まっているのです。海賊王になるから、世界一料理の上手い誰々が必要で、世界一の航海術を持っている誰々が必要で・・・と人が集まってくる。最初から「なる」というビジョンがあるから、そこに必要なものが冒険の途中で集まってくるのです。ここが大切で、「そういう仲間ができるから海賊王になれる」わけではないんですよね。でもキャリアを考える時に、ルフィーのような発想ができる人は少ない。「こういうスキルが身につくからこういう仕事ができる」と思っていたり、「これくらいのキャリアを積んだら、これくらいまでいけるかな」とか、「ベンチャーで経験したら起業できるかな」と考えているのです。そうではなくて、「ここにいく」という目標が先にあって、そのために何をやっていくかが、人生のストーリーであり冒険になっていくんです。だから、ルフィーで言うところの「海賊王」は、僕にとってはなんなんだろうと考えさせられたんですね。

そんな時に、「美樹くんは俳優になってどうなりたいの?」という質問がきました。「アカデミーショー受賞して、レッドカーペット歩いて・・・役所広司さんとかと共演できたら最高ですね」と言ったあとに、「そのあとはどうするの?」ときたんですよ。「そのあと!?・・・へ?」みたいな(笑)次が出てこなかったことにすごく危機感を覚えたんですね。言い方を変えれば、「俺はアカデミー賞をとったら俳優しなくなるのか?」という話じゃないですか。でもそんなことはないし・・・。でも、そもそもなぜ俳優を選んで、なぜ俳優じゃなきゃだめなのか?と考えた時に答えが出てこなかったんですよ。これはマズイと思いました!生き方に指針がなかったんですね。

その後に浅野忠信さんにお会いするご縁があって、一緒に飲みに行かせていただいたその席で、「役者として売れていくためには、たった一つの方法がある。」と言われたのです。「今やっているアルバイトを全部やめて、明日から役者として食っていくんだと決めなさい」と。

くれ 「決める」んですね!

川口 そうなんです。「ほう!」と思いまして・・・。やはりその世界で成功している人は、先に決めているんだな、と知りました。僕はそう決めていなかった。オーディション受けて、受かったら食っていけると思っていた。でもそうじゃないんだと。確かにそうだなと、思いました。

話は前後しますが、こんなこともありました。東北の震災のあとに、「ONE PIECE」が全巻流されてしまった子どもたちのために、東映が行ったボランティア活動に参加させていただいた時のことです。ルフィー役のスター声優・田中真弓さんや、サンジ役でパイレーツ・オブ・カリビアンのジャック・スパロウの吹き替えもやっている平田広明さんらとご一緒しました。休憩時間に平田さんが楽屋から急にいなくなってしまったので探していたら、会場の外で座って、子どもたちにサインをしてあげていたんですよ。ズラーっと列ができていて・・・。その後ろ姿を見て、「かっこいい!」としびれまして。平田さんのその行為というより、その風景にしびれましてね。これほど子どもたちにとって勇気が湧くことはないだろうし、一流の人が持っている影響力ってすごいなあと実感しました。で、その後に楽屋で田中さんが「私はルフィー役が最後になるかもしれない」とおっしゃるんですよ。「え、声優やめちゃうんですか?」と聞いたら、「いや、私が生きている間にONE PIECEが終わるかわからないんだよね〜」と無邪気に話されるんですよ。そんな姿を見て、仕事を愛しているんだな〜と思いましたし、田中さんの声優人生に身を捧げる覚悟を感じました。

そんなふうに、3月の震災から、9ヶ月間くらい色んな人やことに出会って、もう「ヤバい!」と思ったのです。「こういう生き方をしている場合じゃない」と。もっと正直に、やりたいことに実直に取り組んだほうが良いのではないかと思いました。

 

俳優をやめるきっかけとなる、自分自身の生き方に対する思い

くれ 「ヤバい!」と思ったのですね・・・。ではその時に川口さんは、どういう生き方をしたい、と考えたのですか?

川口 どんな生き方をしたいか自分が考えた時に、最終テーマとして「家族」というキーワードが頭に残りました。当時は結婚していませんでしたが、自分は、親、将来の妻、子ども、との時間を大切にできる生き方をしたいんだなと分かったんですね。でも、当時芸能界でプロデューサーさんには、「親の死に目には会えないと思っていたほうがいい」と言われていて・・・それは自分にとっては無理だ、と。この業界という乗り物に乗っていても、自分の行きたいところにはいけないんだな、と初めて気づいたのです。それで、これは違うんだなと、スッパリと何の未練もなくやめることができました。

くれ そうだったのですね・・・。たっぷりと良いお話をありがとうございます!とても深い話だったのですが、これを23歳に気づいたというのは、すごいことですね。

川口 感覚的なことですよね。今こうやって振り返りながらお話できますけれど、当時はわけわからなく過ごしていました。頭の中がプスプス言ってましたよ(笑)。

くれ そうですか・・・。でも、それをきちんと受け止める力が川口さんにはあったのでしょうね。私が23歳の頃を思い出すと、そんなことも感じられない、ただひたすら舞台に打ち込んでいる、という毎日でしたから。お芝居をしているので、人生とか生き方とかは考える機会はたくさんありましたけれども、ここまで深く考えていたかなと思うと・・・余裕がなかったですね。だから、川口さんはすごく良い経験をされているなと思って、感心しながら聴いていました。

川口 出会いには恵まれていましたね。そういう機会があったのはラッキーでした。僕の気づきだけではこうなれなかったと思います。

 

くれ 人との出会いが大きかったのですね。そうやって生き方を考えた川口さんだから、俳優をやめる時も未練はなくスッパリとやめられたのですね・・・

川口 はい、清々しい気持ちでやめました。今もお芝居に対する熱はありますけれども、芸能界でやりたいとは思いません。

くれ 何かビジネスの先にお芝居があればいいと?

川口 はい。演劇的なことは好きだし、ある種、人前に立っている仕事は俳優業をやっているのと同じようなものですし。でも芸能界で飯を食っていこうという気はもうありません。呼ばれたら出るかもしれないけれど(笑)

くれ わかります(笑)私もテレビや映画で俳優さんたちの素晴らしい演技を見ると、ちょっとやりたいなって思います。うずうずしますよね。

川口 そんなものですよね(笑)

 

ビジョンは「義務教育に演劇を」

くれ 川口さんのお話、色々共感することだらけですね。それにしても「海賊王になる」話や浅野忠信さんのお話は、とても腑に落ちます。今、私自身もキャリア支援をしている中でとても大事だなと思うのは、きちんと自分が「これになる」というビジョンを持っているかいないかなのですよね。それによって、その人のその先が変わってくる、というのをすごく実感しています。成功されている方々がこれを皆さん同じくおっしゃっているというのは、本質的・普遍的な、望む生き方を叶えるための法則なんじゃないか、とも思います。

川口 とはいえ、その夢を全部叶えるのは難しい部分もありますけれども、それがないとまず動けないですよね。必要な指針、哲学だと思います。

くれ 今現在川口さんは、こうなる、というビジョンはお持ちですか?

川口 義務教育に演劇を入れる、というのがビジョンとしてあります。演劇的な方法を通じて教育を上昇させるというのをやりたいのです。既に文科省が動き、業界トップの平田オリザさんが立ち役者となってくれてはいるのですが、僕が懸念しているのは、「ダンス」の二の舞になるのではないかということです。つまり、教えられる先生がいないという状況。体育教師がダンスの先生を兼任していて、子どもたちがダンスを全く好きになっていないんですね。

くれ たしかに、オリザ先生が全国の学校を行脚するには限界がありますものね。オリザ先生のレベルを持つ演劇指導者を、一定の数保つというのは、難しい課題でしょうね。

川口 オリザ先生もおっしゃっていますが、教育とは定点で見ていかなければいけないのです。子どもたちが1ヶ月前にできていたことと、3ヶ月後にできていることは違うので、感情の変化や表現の機微を追える先生が授業をしないと、何の意味もなくなります。だから、演劇教育ができる先生の教育をしたいなと思っています。子どもだけでなく、大人たちにとっても演劇を通してコミュニケーションを学ぶのはとても価値があることだと思うので、それを広げていきたいですね。まずは、いったんのマイルストーンとしては、「義務教育に演劇を」です。

 

くれ なぜ「教育」に焦点を当てているのですか?

川口 僕は、人のマインドや人格を形成するのは、親と先生と教育だと思っているんですね。親に関しては、選べない。先生あるいはビジネス的メンターでもいいですが、どんな師と出会い、どんな教育を受けるかは、その人のライフスタイルを形成するにあたり、とても重要なファクターだと思っています。その人の行動が「いいね」と言われる回数が少ないと、自己肯定感がめちゃくちゃ低くなります。そうすると夢を叶えたいと思っても、できる気がしなくなってしまう。カウンセリングをやっていて思うのは、皆新しい自分になることを怖いと思っているんですよね。それは人間の生物的な気質なので仕方がないのですが、自己肯定感が高い方は、恐怖が伴う変化も楽しめるんですよね。「やってみよう!」と。どんなビジネスをするにしても「私ならできる」と思えるかどうかという出発点、社会人としてのスタートの切り方がまず違ってきてしまうんです。そうなれる人は、小さい時にその人の存在そのものを肯定されたことがあることが多い。でも、例えば25歳を過ぎてから自己肯定感を持ちましょうと言っても、すごく難しい。起業に関しても、「できない」と思っている人に「できる」と思ってもらうのはすごく難しいし、時間がかかる。でも、子どもに自己肯定感を養わせるのは、大人ほど難しくないんです。

くれ その自己肯定感を養うのに最もふさわしいのが「演劇」であると?

川口 はい。音楽とか絵画とかスポーツとかで表現が得意な子どもたちはいるけれども、技能の上達が遅い子もいる。そこにどうしても「できるできない」の評価が入ってしまいます。でも演劇の評価は、「上手い下手」でなくて「いいかわるいか」。もっと言うと「リアルかリアルでないか」なので、自分に嘘をつけばつくほど否定される世界であり、逆に自分を出せば出すほど、拍手がもらえる世界なのです。世の中は真逆で、自分に嘘をつきながらしたくない仕事をし、付き合いたくない人と付き合いながら歩んでいくのが是とされていて、好き勝手やっている人は、わりと否定されがちです・・・

くれ 「いい子でいなさい」という教育をされているということですよね。

川口 そうです。そういった社会の前提があるから、やりたいことなんてわからない。だって否定されるんだから・・・となってしまいます。やりたいことあるんだけど封印しているんですよね。先日、文京区の子ども向け演劇教室のボランテイアをした時の話ですが、テーマが「カレーの具材になってね」だったのです。そこですごいなと思ったのが、その子なりの人参を演じるのですが、それがパッと入ってスッとできる・・・早いんです!そこに「どう思われるか」という意識がないから、「僕なり・私なりの人参」がすぐできるんですよ。

くれ 子どもの素直さですよね!

川口 そう。でも大人だと、「へ?人参?人参の正解ってなんだろう?」って思っちゃうわけですよ。正解なんてないのに(笑)あなたが思う人参をあなたらしく演じれば、「この人はこう思っているんだな」というのが伝わってくるんですよね。それが演劇の良さなんです。自分が「これが人参だ」と言い切る姿に説得力があり、「すばらしいね」と他人から言われると嬉しいですよね。これは他の芸術表現にはない、良さだなと思います。

くれ 演劇を通して、自分を表現することの楽しさが自己肯定感につながるということですね。

川口 大事なのは、それを誰かに認めてもらえるというところですよね。子どもが親に「これ見て」と言った時に、「バカなことやってないで勉強しなさい」と怒るのか、「え〜何それ?」と興味を持つのか、ですね。そこで子どもは素直だから、怒られると「ママはこんなことするより、勉強してくれたほうが嬉しいんだ」と思ってしまう。そしたらもう、受験エリートの出来上がりです。

 

ビジョンを描いた手がかりは、自分自身の体験と環境

 

くれ 認めて自己肯定感を高める、ですね。これは川口さん自身の幼少期の何らかの原体験を通じて、強く思われているのですか?

川口 僕自身はバリバリの受験生で勉強と部活しかやっていなくて・・・そのままいくと、銀行に入職していたんじゃないか、というコースを歩んでいました。ただそれが肌に合わなかった。親は勉強していいところに就職しなさい、なんて思ってもいなかったのですが、僕自身が勘違いをしたのでしょうね。いい点をとってあげることが親にとって喜びなんじゃないかと思っていたんです。でもうちの親は、僕が100点をとっても褒めないんです。「ああ、がんばったじゃん」程度で興味なさそうで(笑)肩透かしくらう感じでしたね。両親が二人とも教育者だったので、教えることの本質に気づいていたんでしょうね。だから、学業優秀だったからといって親に評価されたことはなくて・・・その親の姿勢が僕にとっては良い影響だったなと思います。兄も都立の有名な進学校へ行っていたのですが、親に学業のことでとやかく言われているのを見たことはないし、それで兄がへこんでいるのも見たことがない。

くれ 教えることの本質を知っている親御さんがいたり、色々な師匠との出会いや人生のヒントになる声かけに出会ったこと自体が、川口さんの人生にとって大きな意味があったのですね。

川口 そうですね。出会いに恵まれたし、心のどこかで「自分はできる」と思えているのは、そういう親がいたことや教育の環境のおかげだろうなと思っています。結局、僕はザ・優等生から望んで異端児になりましたから。

くれ そうなんですね。逆に川口さんのような親御さん、師、教育環境にいられなかった人たちが、物事の本質に気づいたり、自己肯定感を高めるためにはどうすれば良いのでしょうか?

川口 偉そうなこと言えませんが、そういう場所に早く行ってください、としか言えないですね。成果でジャッジしない、その人のありのままの価値を見てくれる人と早く出会うことです。もし自分が自分の価値を感じられないのであれば、その価値を感じさせてくれる人と出会うことです。探せばいますし、足を動かせばできますし。そういう人にとにかく出会いに行ってほしい。そしてもし出会ったらまず関係をつくることです。ビビってしまわないで。

くれ どうしてもビビっちゃう人がいると思いますが・・・

川口 たしかに。すごい人に会うとビビりますよね。でもできればすごい人、社会的に影響力がある人に出会ってほしいですね。そういう人たちの話って本質的だし。あなたなりの価値や深い基準を示してくれる人と近づく!これが早道かなと。自分の力でなんとかなると思わないほうが良いですね。今自分に自信がない人が、己の中だけで自信をつけられるか、と言ったらほぼ無理ですからね。誰かに自信をつけてもらったらいいのです。

くれ 自信というのは、誰かにつけてもらっていい、頼っていいということなのですね!人に頼ることが恥ずかしいと思う人は、どうしてもそこで行動がストップしてしまいますよね。その壁を打ち破ることが必要ですよね。

川口 格好悪いと思っても、人に「ちょっとヘルプ!」のひと言が言えるかどうかですよね。僕も出会った師に、「美樹くんは頼られたらどう思う?」と聞かれて「嬉しいです」と答えたら、「皆そう思っているんだよ」と言われて、「そっか!」と。甘えると頼るは違うので、その線引きが難しいですけれど・・・でも思いっきり甘えてみて、「それは違う」と言われたら修正すればいいわけですから。一人の力でなんとかしようとしない、と決めることです。

くれ 一人でなんとかしようとしないと決めることですね!世の中真面目な皆さんはなんとかしようとがんばっちゃいますからね。そこで苦しくなってしまう。

川口 お人好しや人たらしが成功していくのは、結局頼るのが上手いからです。ルフィーもそうですよね。リーダーとしての自分の役割がわかっているから、自分ができないことは徹底的に人に任せていますから。とにかく、一人では無理だという匙を投げてみることですよね。

くれ なるほど、それをやっていくことで確実に自分にも良い変化が起きそうですよね!今日はとても良いお話を聴かせていただき、ありがとうございます!

 

川口美樹さんプロフィール

1988年生まれ。
日本大学芸術学部 映画学科 卒業。

多くの業界人を輩出している日本大学芸術学部において、演技コースに所属し、特待生を修める。
在学中より芸能活動を開始。
ミニシアター系の映画・商業演劇・TVのバラエティ番組などに出演。

現在は、執筆業と講演業を軸に、様々な事業を展開。

公式HP http://pert-liberte.com

 

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